線形写像は格子を傾けたり伸縮したりしますが、足し算と定数倍の構造を保ち、原点を原点へ移します。
ベクトルを別のベクトルへ移す操作は無数にあります。しかし、どんな操作でも一度に調べようとすると規則が複雑すぎます。そこで、ベクトル空間の基本操作である足し算と定数倍を壊さない写像に対象を絞ります。
この条件を満たす写像は、基底ベクトルをどこへ移すかだけで全体の動きが決まります。そのため行列で記録でき、計算と理論を結び付けられます。
以下では V,W を同じ体 K 上のベクトル空間とします。初めて読むときは K=R と考えて構いません。
2条件は、任意の a,b∈K に対する
f(ax+by)=af(x)+bf(y)
という一つの式にまとめられます。「任意の」が重要で、都合のよいベクトルだけで成立しても十分ではありません。
m×n 行列 A を固定すると、
T:Rn→Rm,T(x)=Ax
は線形写像です。行列の分配法則とスカラー倍の性質から
A(x+y)=Ax+Ay,A(cx)=cAx
が成り立つからです。
∵証明
スカラー倍を保つ条件に c=0 を入れると、任意の x∈V に対して
f(0V)=f(0x)=0f(x)=0W
となります。
この性質は線形でないことを示す便利な判定法です。ただし、f(0)=0 だけでは線形だとは限りません。たとえば f(x)=x2 は 0 を 0 へ移しますが、一般に加法を保ちません。
Q線形性を判定する★★☆
次の写像 T:R2→R2 が線形写像か判定してください。
T(x,y)=(x+y,2x−y).
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(x1,y1),(x2,y2)∈R2 と c∈R を一般のまま置き、加法とスカラー倍の2条件を確認します。あるいは、T(x,y) を行列と列ベクトルの積で表せないか考えます。
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T(x,y)=(121−1)(xy)と表せます。固定した行列を掛ける写像なので線形です。直接計算しても、任意の u,v∈R2 と c∈R に対して T(u+v)=T(u)+T(v)、T(cu)=cT(u) が成り立ちます。
Q行列で表された線形写像を計算する★☆☆
T:R2→R2 を
T(x,y)=(x+2y,3x−y)と定めます。T(2,−1) を求めてください。
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x=2,y=−1 を二つの成分へ代入します。
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T(2,−1)=(2+2(−1),3⋅2−(−1))=(0,7).
Q原点を保つことを導く★★★
線形写像 T:V→W が必ず T(0V)=0W を満たすことを示し、この事実を使って f(x)=2x+1 が R 上の線形写像でない理由を説明してください。
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0V=0⋅v に対するスカラー倍の保存を使います。
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任意の v∈V に対し、線形性から
T(0V)=T(0⋅v)=0⋅T(v)=0Wです。一方、f(0)=1=0 なので、f(x)=2x+1 は線形写像が満たす必要条件を破り、線形ではありません。