これまでベクトルを数の組として計算してきました。しかし、多項式を足したり実数倍したりする規則も、数ベクトルの規則によく似ています。行列や関数についても同じです。ベクトル空間という共通の枠組みを作ると、一度証明した事実をこれらすべてに使えます。
最初の6項目は、足したり実数倍したりしても同じ世界で計算を続けられ、引き算もできることを保証します。残りは、括弧の外し方や計算順序が通常の代数と矛盾しないことを保証します。
このように「ベクトル」という語は、矢印や数の組だけを意味しません。どの対象をベクトルと呼ぶかは、考えている集合と演算によって決まります。
すべての公理を最初から確認する代わりに、次の3条件で判定できます。
空集合は零ベクトルを含まないため、部分空間ではありません。「空でない」という仮定は省略できません。
∵証明
部分空間なら、これらはベクトル空間の公理から必要です。逆に3条件が成り立てば、加法とスカラー倍で W の外へ出ません。−v=(−1)v も W に入り、交換法則や分配法則など残りの規則は、もとの空間 V で成り立つものをそのまま受け継ぎます。
右辺が0でない Ax=b の解集合は、一般には零ベクトルを含まないので部分空間ではありません。
∵証明
係数をすべて0にすれば零ベクトルが入ります。二つの線形結合を足すと係数どうしを足した線形結合になり、線形結合を実数倍しても係数を実数倍した線形結合になります。よって3条件を満たします。
Q同次方程式の部分空間判定★☆☆
W={(x,y,z)T∈R3∣x+y+z=0}が R3 の部分空間であることを3条件で確認してください。
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零ベクトルを代入し、二つの解を成分ごとに足した場合と、解を実数倍した場合を調べます。
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零ベクトルは 0+0+0=0 を満たします。u,v∈W なら、各ベクトルの成分和は0なので、u+v の成分和も 0+0=0 です。また a∈R に対して au の成分和は a⋅0=0 です。3条件を満たすため部分空間です。
Q原点を通らない集合の判定★★☆
L={(x,y)T∈R2∣x+y=1}は部分空間ですか。判定条件のどこで失敗するかを二通り説明してください。
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零ベクトルが入るか調べます。また、L に入る具体的なベクトルを2倍してみます。
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零ベクトルは 0+0=1 を満たさないため、L に入りません。これだけで部分空間ではないと分かります。別の見方では (1,0)T∈L ですが、その2倍 (2,0)T は 2+0=1 なので L に入りません。したがってスカラー倍についても閉じていません。
Q二つの部分空間の共通部分★★★
U={(x,y,z)∈R3:x+y+z=0},W={(x,y,z)∈R3:x−y=0}とします。U∩W の基底を一つ求めてください。
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x=y と x+y+z=0 から z=−2x です。したがって
U∩W={x(1,1,−2):x∈R}なので、基底の一つは {(1,1,−2)} です。
発展的には実数以外の「体」の上でも同じ考え方を使えます。このサイトでは、まず実数上のベクトル空間を中心に扱います。